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仕事や研究、コンピューターとの付き合い方

若いうちからメディアに出るということ

芥川賞という賞がある。いわゆる本格的な小説家になるための登竜門的な賞だ。古くは大江健三郎遠藤周作といった押しも押される文豪、その後も村上龍宮本輝といった大スターを生み出してきた恐らく文学界No1の賞であろう。しかし、上にあげた4人のような普通に誰でも知ってる作家となれるのは実はわずかである。芥川賞受賞作がキャリアの最高点であることも少なくない。文学というのは、人気商売のところがあるので、仮に作家自身に方法論や優れた知的能力がなくても、特殊な経験や特殊な人格から「おもしろい」ものが書けてしまい、それがそのまま売れてしまう。もちろん、その後も方法論の会得や新たなネタの追及をしなければ、ただの「愉快な人」でしかないので作家としてのキャリアは終わりである(例えば、村上龍は処女作から初期は変わった若者のおもしろいお話をメインに打ち出していたのが、その後(等身大ではない若者の)社会問題、金融や戦争など様々なジャンルに手を出して井戸が渇ききらないようもがいているようにみえる。一方で、村上春樹アメリカ文学の研究というコアの方法論を梃子にそれほどジャンルを広げずに成功している。この二人の対照的な作家人生は興味深い)。

さて、今日のテーマは文学ではない。ある院生についてである。彼は、某大学のいわゆる学際的な博士課程に在籍し、そのテーマは若者論である。彼の研究成果はピースボートに乗船する若者の行動・考えを調べて、彼らの行動は社会変革を志向せずシェルターに隠れてるだけと断じるものである。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jss/research/conf83_abstract/abstract194.pdf
ま、それはいいでしょう。でもその後彼は一般向け本を書いた。それも複数冊。本は読んでないのでコメントはしないが、どうやら大きな異論があるようである。でもまあ、それはいい。彼は動画に出ていた。http://www.youtube.com/watch?v=r333ykF7P8w
これは、元2ch管理人のひろゆき東京大学本田由紀教授と件の彼が対談するものである。観衆は彼の同僚であるところの院生のようだ。さて、冒頭だけメモをおこす。若者にとって厳しい現実があるというようなことを古市氏が言ってそれにひろゆきが突っ込みをいれるという場面。
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ひろゆき
・・・一生スーパーのレジ打ちです。それでいいじゃんっていう生き方でいいのであれば、別にルームシェアで、みんな楽しく時給500円でいいじゃん。ということであれば、それでいいわけなんですよね?
(古市)
もちろん、それも許容されるべきだと思うんですが、実際のそのアメリカの、一生マック(の店員)みたいな人って言うのは保険にも入ってない。病気になったらけっこう死んじゃったりする。でも、例えばアメリカじゃなくて、真逆の北ヨーロッパであったならば、一生マックの店員でも、たとえばノルウェーだったら、時給がマクドナルドで一時間2000円なんです。で食べていけるし(注:ノルウェーの物価は非常に高いことで有名。2000円を日本の2000円と思わせるのはミスリード。またある資料ではマックの店員の給与は20歳以上で22ドルとなっていた。為替レートから2000円ではない。)、病気とかになってしまっても、病院とかは無料みたいなで、どうにでもなっていけるみたいな。だからどっちかであればいいと思うんですけど、ただ単純にアメリカっぽくなっていくのはどうなんだろうっていう。
ひろゆき
でも、現状アメリカっぽくなっていて、でも古市さんとしては社会福祉を充実した、北欧みたいな社会になったほうがいいなっていう。
(古市)
いや、そこまでもしなくてもいいと思うんですけど、ただ、なんか死んじゃうのはなんかなあ、っていう。別に僕は基本的に自分の幸せさえ考えれば別にいいと思ってる人間なんですけど、それでも道端で人が死んでたらやだなーっと思って。
ひろゆき
見たくない?
(古市)
見たくないっていう。(以下略)
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()内は筆者。

まあ、このレベルなんですね。結局、メディアにはとりあげられているけど、確たる方法論や信念があるわけではない。それどころかデータすら怪しい。少なくともアメリカの低所得者は保険に入れずのたれ死ぬという言説は、一応Medicaidという低所得者用保険があって低所得者に対するフードスタンプ等の社会保障制度がある国で勉強してる人間からすると「えええええ」(by安中さん)という感じ。
いやまあ、いいんですよ。売れれば。売れたら正義!でもね、10年後、20年後どうしますか。その貧弱な知識で研究者として戦っていけるんですか?彼は自分の立ち位置が不明確なまま、でも、自分は希望難民を発見して世に広めてるから価値があるんだと思っている節があるんだけど、実際は、ただの大人たちの消費の対象ですよ。それでもいいのかもしれないけど、芥川賞だけで終わった作家になりたいの?ってお兄さんは思っちゃいます。